特許出願書類の眺め方⑧ ~図面~

最後は図面の説明です。特許の図面は独特でなかなかとっつきにくいかもしれません。そして、実は、特許事務所の弁理士・特許技術者の中でも得意・不得意がわかれるのが図面です。

図面の役割

まず、図面が何のために存在するのかを考えてみましょう。多くの特許出願では、図面が添付されています。一方で、化学やバイオの発明の出願では、なかったりもします。一体何のためにあるのでしょうか。

発明の説明の補助をする

図面は、明細書に記載の発明の説明に使用されます。特許出願においては、明細書において文章にて発明を詳細に説明します。しかしながら、装置や機械、情報処理それから電気・電子回路などの多くの発明の場合には、文章だけでは発明を説明しきれません。また、化学、バイオ分野のグラフやスペクトルなども文章では説明しきれません。そこで、図面を使ってこれらを表現し、明細書の文章の説明を補います。

図面はなくてもよい

特許法上、図面は必須ではありません(第36条第2項)。したがって、発明を説明するにあたって明細書のみの記載で問題ない場合には、省略することが可能です。化学・バイオ分野で図面がない明細書が多いのはこのためですね。

どのように図面を書けばよいか

では、どのように図面を書けばよいのでしょうか。事務所にまかせっきりという方も少なくないかとは思います。しかしながら、手元に届いた図面を理解し、評価するためにも基本的な事項は押さえておきましょう。

書き方の基本は特許法施行規則に記載されている

図面の記載方法については、基本的には特許法施行規則の様式第30に記載されています。あくまでも基本であり、日本においてはこれに違反したからといってなんらペナルティはありません。

図面:特許 (jpo.go.jp)

但し、これに準じて記載した方が無難なのは確かです。特許公報が発行された際に図面は、相当に縮小されます。独自の方法で細かく記載した場合には、図面自体がつぶれていることも多々あります。また、外国に出願する場合、外国の法律に合わせた図面の記載が必要ですが、上記の規則に沿って記載することで、外国出願時の図面の修正を少なくすることができます。

個人的な推測で恐縮ですが、特許図面は、機械分野を中心に発達したのではないかと思っています。歴史的に、18~19世紀に各国の特許制度が整備されましたが、この頃の発明の中心はやはり機械だったと推測されますし、機械分野の発明は今でも特許発明において大きなウェイトを占めています。ですから、情報処理のブロック図やチャート図、化学・バイオ分野のグラフ、写真等々には、この規則はあまり合致していません。但し、できる限りこの規則に合わせて記載することが重要です。

図面は、白黒

図面は、白黒が基本です。カラーは認められません。国内出願では、一定のグレースケールも認められてはいますが、国際出願(PCT出願)では、二値化してグレーを表現しなければなりません。また、特許公報でもグレースケールの図は不鮮明になりやすい傾向にあります。不鮮明な画像を避けるためにも、できる限り白黒で図面を作成しましょう。

個人的には、そろそろ特許公報のフォーマットも改めて、カラーを認めてくれてもよいかとは思いますけどね。

図面は基本的には線図と符号で構成される

図面中の図は、基本的には線図です。また、図中の各部位を示すには、各部位から引き出し線を記載して、その先に数字の符号を付します。

図面中には、基本的には用語や名称等々は記載しません。但し、規則上は記載すること自体は許容されています。ブロック図やチャートなどは、符号だけだと何が何だか分からなくなりますから、適宜用語を入れた方が良いでしょう。また、グラフの凡例や縦軸、横軸の単位の記載などは必須といえますね。

発明を理解しやすいのが一番

ここからは規則とは関係なくなりますが、図面は発明を理解できるように記載することが好ましいです。とってつけたように図を追加しても、プロの我々が読んでもよくわからないことがあります。発明を説明するのに、発明者の方からもらった図面をそのまま使用するよりも、見方を変えて図面とした方が発明が理解しやすくなることも少なくありません。この点、弁理士の腕が如実にでるように感じています。

発明の説明の流れが一望できる図の順番

また、図の並びにも気を付けましょう。可能であれば、図1から図面を順に眺めていって、最後まで図を見た際に、発明の説明の流れが理解できることが理想です。基本的には、図の並びは自由ですが、発明をよりよく理解するためには、図の順番も大事です。また、必然的に、明細書中の記載に沿って図を並べると、基本的には理解しやすい図の並びとなります。

いろいろな図面

特許で使用される図面には多くの種類が存在します。そのうち代表的なものをご紹介します。

断面図

特許図面で最も使用される図面かもしれません。ある製品の断面をすっぱりと切ってその断面構造を表現します。断面部分は、斜線(ハッチング)で表現されます。部材が変わるところはハッチングの種類を変更し、部材の区別がしやすいようになっています。

一般に、発明の特徴は装置の内部にあることが多く、機械分野の発明では、頻繁に利用されています。

斜視図

斜視図は、物の立体的な構成を表現するのによく利用されます。また、物の全体像をつかみやすいのも特徴です。物の発明についての明細書を執筆する場合、個人的には、図1に物の全体像の斜視図を記載して、読者にこれから説明するものについてのイメージを膨らませてもらうようにしています。

平面図

平面図もよく利用されます。ある製品の特定の部位の表面に規則的な構造物が存在したり、特徴的な部分が存在する際には、平面図の利用が便利です。

ブロック図

そして、ブロック図。情報処理装置や制御機器の発明では、各機能を機能ブロックとして表現し、その相互関係を記載したブロック図を記載することが一般的です。ここで機能ブロックを符号だけにしてしまうと理解できないので、各機能ブロックの名称を記載することは仕方ないですね。

フローチャート

情報処理などでは、機能ブロックを記載しても、どのような順序でプロセスが進むのか理解できないことが殆どです。したがって、そのプロセスを記載するためにフローチャートを用います。下のフローチャートは、極めて簡単な例です。

グラフ、チャート、スペクトル、写真

主に実験(実施例)の結果を現すために用いられます。下の縦軸・横軸の単位は英語で記載されていますが、基本的には日本語で記載します。英語で記載しているのは個人的なTipsで、外国出願の際の図面の編集を省くためです(出願費用が若干ですが安くなります)。

図面の原稿をもらった際には

それでは、明細書案をもらった際に、添付された図面の原稿をどのように眺めればよいでしょうか。

まずは明細書を読みつつ図面を眺めて理解できるか確認する

まずはこれですね。明細書を読みながら図面を眺めてみてください。発明者が読んで理解できない明細書は、誰も理解できません。遠慮なく理解できないことを執筆した弁理士に伝えましょう。弁理士は様々な意図をもって明細書を記載していますから、その点を一つ一つ解説してくれるかと思います。

明細書中に図面がしっかりと紹介されているか。

その上で、図面が明細書中にしっかりと紹介されているかを確認してください。「図面の簡単な説明」の欄とは別にです。時折、いろいろな明細書を読んでいると、なんの前触れもなく唐突に図面を参照して説明が始まることがあります。多くの場合、発明を説明するストーリーの腰を折りますし、読みにくくなるのでお勧めしません。きっちりとどこかで図面を紹介して、その上で明細書にて図面を参照して発明を説明すべきです。

図面に記載される発明が順を追って説明されているか。

こちらも、マストではないのですが、やはり大切にした方が良いと思います。人間は、文章も図面も頭から読んでいく生き物です。明細書でいきなり図6の説明からはじまって、その後図4、図1、図3の順に説明が進行すると、まあまず混乱します。単に順序を入れ替えるだけですからその程度は工夫した方が良いです。

技術的な齟齬がないか確認

次に、理解しやすさとも関連しますが、図面に技術的な齟齬がないか確認してください。弁理士は、できる限り技術に齟齬がないように図面を作成します。しかしながら、弁理士は技術者ではありません。したがって、技術的に誤った解釈をすることもあり得ます。

明細書の記載であっても、現実の自然法則を基礎とします。

また、やはり、現実の自然法則に反するような記載も適切ではありません。仮に存在した場合には、サポート要件等々の拒絶理由の原因になることもあります。この点に留意して、科学的に整合がとれている確認ください。

符号間違いはないか

技術的な齟齬とまでは言えませんが、符号間違いは多く存在します。明細書と図面とで符号があっていない場合、違う部材なのに同じ符号をつけてしまった場合等々。。。。これは執筆者が悪いのは確かなのですが、存在する可能性は低くないので、留意して確認してください。

本発明と発明外の製品の説明が区別できるか

これも重要です。本発明と発明外の製品の区別ができない場合には、明細書内でどこまでが発明についての記載・図面で、どこまでが発明外の記載・図面なのか混乱してしまうことがあります。この場合も、権利行使や審査においてあまり有利になるとは言えません。。。具体的によくある事例としては以下の例があります。

同じ図面を利用して本発明と発明外の製品の説明をしていないか

往々にしてあるのですが、同じ図面を利用して、本発明と発明外の製品の説明を行うことはお勧めしません。どの図が発明を説明して、どの図が発明をしていないのか、まったくわからなくなります。

本発明と発明外の製品の説明において全く同じ符号を使用していないか

こちらのケースも少なからずあります。本発明の図面と、発明外の製品の図面で全く同じ符号を使用していると、明細書内で混乱が生じます。本発明に使用する符号と、発明外の製品に使用する符号は別のものにしましょう。声を大にして主張したいところです。

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