このシリーズでは、拒絶理由通知とその対応について解説します。出願してしばらく待っていると唐突に来る拒絶理由通知。驚いたことはありませんか?これで特許権が取れないのかと心配になったことはありませんか?そんなことはありません。拒絶理由通知を受けても多くの場合には特許になります。
今回は、拒絶理由通知とはなにか、そしてその対応について検討します。次回以降は、各拒絶理由通知の内容と対策について考えていきたいと思います。
拒絶理由通知とは何か
まず、そもそも拒絶理由通知とは何なのでしょうか。これについて考えていきたいと思います。
特許庁による審査結果を記載した書類
出願時に、特許出願を行なっても自動的には特許権が得られないと弁理士から聞いたことはありませんか?特許庁は、特許出願について特許を付与する(特許査定)前に、2種類の審査を行っています。方式審査と実体審査です。
方式審査は、実体審査前に特許出願の書類の形式が問題ないかを審査するものであり、違反すると補正命令がなされ、補正を行って違反状態を是正することが求められます。こちらは、正直なところ、特許事務所がしっかりしていれば来ることはありません。。。
これに対し、実体審査では、主に、発明に特許権を与える価値があるか否かを審査します。この実体審査の審査結果を記載した書類が拒絶理由通知書となります。この特許権を与えるか否かの基準ですが、これは特許法第49条に拒絶理由という形で列挙されています。審査官は、特許出願書類を審査して、何らかの拒絶理由が発見された際には、拒絶理由通知書を出願人に発送し、出願人の意見を聞くわけです。要するに、「審査してみたら特許出願に拒絶理由が見つかったから拒絶理由が解消できるように対応してね」ということで、拒絶理由通知書が出願人の手元に届くわけです。
該当の拒絶理由が列挙されている
それでは、拒絶理由通知書には何が書かれているのでしょうか。初めて拒絶理由通知書を読むと、よくわからない文章がごちゃごちゃ載っているようにしかみえません。しかしながら、実は記載内容はシンプルです。
拒絶理由通知書には、①該当する拒絶理由と②その理由が記載されています。
非常にシンプルです。それだけです。しかしながら、法律に即して記載していたり、技術内容を記載していたり、あとは審査官の個性もあります。そして、なによりも長い。これらのことから、拒絶理由通知書は慣れないと読みにくい文書となっています。
法律に基づく文書である
拒絶理由通知書は、特許法(第50条)に基づいて作成・発送される文書です。したがって、特許法に基づいて記載が行われています。上記の拒絶理由の列挙についてもそうですね。拒絶理由となる理由についても、やはり、法律に沿って記載されています。
なにが言いたいかというと、拒絶理由通知書は、技術文書ではなく、どちらかというと法律文書であるということです。
特許では、技術的な事項も大変重要な要素ではありますが、これを法律に落とし込んで考える必要があります。審査官も特許出願書類に記載された発明という技術を法律に落とし込んで解釈し、その上で拒絶理由に当てはまるか否かを法律に沿って解釈しています。
審査官の技術的な解釈やロジックに不満に思うこともあるかもしれません。しかしながら、反論するにしても、技術的な解釈の誤りやロジックの誤りをしっかりと法律に落とし込んで議論を行わないと、拒絶理由が解消することはありません。
多くの場合、適切に対応すれば特許になる
しかしながら、拒絶理由通知が来たからといって諦める必要は全くありません。ほとんどの場合、適切に対応すれば特許になります。
審査請求を行った90%以上の出願で拒絶理由通知が発送されます。そして日本の出願全体として、ここ数年の特許査定率は75%程度です。審査にて権利化されないの確率は、25%程度。この中には戦略的に出願を放棄したり、弁理士が対応していない案件もありますから、しっかりと弁理士が対応すれば特許査定率はより高いはずです。さらに、審査がだめでも審判で特許となる可能性もあります。体感的には、しっかりと対応して最終的に特許にならない案件は、100~200件に1件程度です。
複数回拒絶理由通知を受けることもある
あまり嬉しいことではありませんが、複数回、拒絶理由通知を受けることもあります。これは、最初に拒絶理由通知に対応した際に、補正によって新たな拒絶理由が生じた場合や、前回の審査で見落とされていた拒絶理由が発見された場合です。
逆に考えると、1回目に受けた拒絶理由通知に対応して、即拒絶査定となる可能性はあまり高くありません。拒絶理由通知を受けたからといって悲観的になることはありませんので、慎重かつ冷静に、そして前向きに対応を行いましょう。
拒絶理由通知を受領した際にすべきこと
それでは、拒絶理由通知を受領した場合、どのように対応すればよいでしょうか。基本的な対応の流れは、①対策を練る、②意見書・手続補正書を提出するの2つの流れとなります。
拒絶理由の対策を練る
まず、当たり前ですが、拒絶理由通知を読み込んでどのように対応すれば拒絶理由が解消するかを考えましょう。
拒絶理由の解消方法としては、主に、①意見書における反論と②補正により発明を修正するの2つの方法があります。通常は、両方を組み合わせて対応することが殆どです。
特に、お伝えしたいが②補正による発明の修正です。一般的に、できる限り広い権利を確保することを目的に、特許請求の範囲に記載される発明の範囲は、広く記載されています。このことで、発明の範囲が意図せず従来技術と重複していることがあります。また、実際に開示した発明に対して特許請求の範囲に記載される発明の範囲が異常に広い場合があります。このため、発明の範囲の一部を削除する(発明の範囲を減縮する)ことで、拒絶理由が解消することが多くあります。
審査官の認定が誤っているからといって単純に反論しても、状況が微妙な場合には審査官に反論が認められない場合があります。補正を行って発明の範囲の一部を削除することで、状況が明確となり、新産官に反論が認められることが多くあります。
意見書・手続補正書を提出する
そして、練った対策に基づき意見書・手続補正書を提出します。提出期限は、拒絶理由通知の発送から60日です。期限を過ぎると提出が認められないので、期限内に間に合うように提出しましょう。
意見書・手続補正書の個人での作成は、正直なところあまりお勧めできません。非常にフォーマットが独特であり、法律に沿った言い回しも訓練しない限りなかなか困難です。特許事務所に依頼することをお勧めします。
審査官との面接・インタビュー
状況によっては審査官と直接コンタクトを取って面接・インタビューを行うことも有効です。このような面接は、いろいろなタイミングがありますが、意見書・手続補正書を正式に提出する前に行うことが一般的です。
状況によっては面接・インタビューが有効
では、どのような状況で面接を行うべきでしょうか。
通常の拒絶理由通知書の対応については、審査官、出願人とも書面でコミュニケーションをとります。しかしながら、文章で自分の意図することを書くのは意外と難しくありませんか?特に特許出願書類や拒絶理由通知書の記載は難解です。結局のところ、文書では、コミュニケーションで伝えたいニュアンスが欠落してしまうことがあります。このような場合においては、面接を行って発明を説明したり、審査官の意図を確認したりすることが拒絶理由の解消に有効です。
また、対応案を作成したけれども、審査官の判断が微妙になりそうな際に予め審査官に対応案を確認してもらうこともできます。
面接・インタビューを行うには、手間も費用も必要とはなります。しかしながら、さらなる拒絶理由通知が発行されることを考えると、面接・インタビューにより新たな拒絶理由通知を防止してトータルとして手間と費用を削減することができます。
電話インタビューと直接の面談がある
具体的な方法としては、電話でのインタビューと直接会って行う面談(ウェブも含む)とがあります。それぞれ特徴があって、適した使用方法があります。
記載要件違反には電話インタビューが有効
まず、記載要件違反、例えば明確性違反(特許法36条6項2号)、サポート要件違反(特許法36条6項1号)、実施可能要件違反(特許法36条4項1号)などの場合には、電話によるインタビューがお勧めです。具体的には、電子メールやFAXにより手続補正書案を送付して審査官に検討してもらい、その心証を電話にて開示してもらうことになります。
明確性違反などの場合、発明が明確になるまで補正を行いますが、発明の範囲を広く維持しつつ明確化するとどうしても確実に明確かは判断しにくい場合があります。またサポート要件・実施可能要件は、どうしても審査官の主観が入っています。このような場合には、手続補正書案を提示して審査官の心証を得る(言質をとる)のが拒絶理由の解消方法として確実です。
新規性・進歩性違反には直接の面接が有効
新規性・進歩性違反の拒絶理由の場合には、発明が誤解されていたり、発明と引用文献に記載の技術との差についての詳細な説明が必要だったりします。このような場合には、直接面接を行うのが有効です。直接口頭で発明を説明できると審査官の心証も改善します。近年、オンライン面接もできるようになり、便利になりました。
多くの場合、手続補正書案・意見書案の提出が求められる
いずれにせよ、多くの場合、手続補正書案や意見書案の提出が求められます。通常は、面接・インタビュー前にこれらの案を渡します。少し手間にはなりますが、この案でOKを審査官からもらえると、拒絶理由の解消がそれなりに確実になりますから、やっておいて損はありません。
分割出願を行う
直接的な拒絶理由通知に対する対応に加えて、分割出願を行う場合もあります。
分割出願とは、特許出願書類に記載された発明のうち、現在の特許請求の範囲に記載された発明とは別の発明について別途の出願を行うことを言います。分割出願を行うと、分割出願の出願日は元の特許出願(原出願)と同一の日付となります。
拒絶理由通知への対応で発明の範囲の一部を削除したけれども削除した範囲についても何らかの形で権利化したい場合には、分割出願はお勧めです。
弁理士にどのように仕事を依頼すべきか
拒絶理由通知の対応におきましては、弁理士の役割は非常に重要です。そこで、どのように弁理士、特許事務所と付き合っていけばよいのか考えてみましょう。
拒絶理由通知は代理人がいる場合には代理人に届きます。したがって、一般的には特許事務所が拒絶理由通知を受領し、出願人に拒絶理由通知を転送することで出願人の拒絶理由通知への対応が始まります。
拒絶理由通知対応における弁理士の役割
拒絶理由通知対応における弁理士の果たす役割としては、以下の3つが主に挙げられます。
拒絶理由通知に関するコメント
拒絶理由通知に対してどのように応答すべきか、弁理士が法律に沿って対応策を練ってコメントをしてくれます。また、拒絶理由通知内に記載された拒絶理由そのものについての解説もしてくれます。
現在の審査プラクティスに精通した弁理士のコメントは大変貴重です。是非うまく利用しましょう。コメントは、なんの依頼をしなくても作成してくれる特許事務所と、依頼をしないと作成してくれない特許事務所があります。拒絶理由通知が送られてきたら、まず、コメントを作成してもらえるのか、また、その場合にはいつまでに作成してもらえるのか、確認しましょう。特許事務所からの拒絶理由通知の送付時における送付状等に記載されていると思います。
また、拒絶理由通知への対応に慣れていて自信がある場合には、コメントをもらわなくてもよいかと思います。
また、コメントとしては、書面でのコメントと打ち合わせにおけるコメントがありますが、少なくとも書面でコメントをもらっておきましょう。書面でコメントをもらって、それでも疑問に思う時には打ち合わせを要求しても良いかもしれません。
応答書類の作成・提出
応答書類である意見書・手続補正書の作成・提出です。また、分割出願を行う際には分割出願の出願書類の作成・提出もあります。これらの書類については、作成が大変困難であり、また間違うと適切に権利が取得できない場合もあります。こちらの作業については弁理士に任せるのがよいかと思います。
面接・インタビュー
拒絶理由通知の内容によっては、審査官に対して直接面接を行ったり、審査官に対して補正案をメール・FAX等で送付して検討してもらうことが有効です。その後、電話インタビューにおいて心証を審査官から教えてもらえます。新規性・進歩性等の複雑な事案については前者の面接がお勧めです。一方で、記載不備などの文言の調整のような場合には後者の補正案の送付+電話インタビューがお勧めです。
弁理士はこのような作業の仲介を行ってくれます。この面接やインタビューについては、出願人本人もできますが、多くの場合、場慣れして、経験値のある弁理士に依頼するのがお勧めです。
出願人側の対応
上述したように、拒絶理由通知対応においては、特許事務所・弁理士を利用すると適切な対応を行いやすくなりますし、出願人の労力的な負担も低減できます。しかしながら、やはり留意点もあります。特許権が出願人の権利である以上、その取得にはやはり出願人の事情や意向が大事であり、「特許事務所にまかせっきり」ということにはできません。
コメントを踏まえた拒絶理由通知の検討
特許事務所からコメントが届いたら、コメントを踏まえて拒絶理由通知中の拒絶理由が解消できるのか、検討してみましょう。そして、特許事務所の提案に同意できるのかできないのか、あるいは別の案を希望するのかを特許事務所に伝えることになります。伝えた出願人の方針に沿って、特許事務所の弁理士は応答書類を作成します。
経緯としてはこのとおりですが、留意点についていくつか押さえておきましょう。
うまく拒絶理由が解消できるか、コメント中のロジックを確認する
コメントが届いたら、コメント中の提案でうまく拒絶理由が解消しそうか、是非検討してみてください。弁理士は、基本的には法律家であって、技術者ではありません。したがって、法的には適切でも、技術的にはロジックが適切でないこともあります。ロジックが適切でないと感じた場合には、どのように今後対応すべきか、疑問点も含め弁理士に相談してみましょう。
弁理士の意見を鵜呑みにしても適切な権利が取れない場合がある
こちらも重要です。コメント中の提案に沿って補正や反論を行った場合に、貴社の事業が依然として保護されているか、十分に確認しましょう。特許事務所・弁理士は貴社の事業の進行状況について知らないことが殆どです。このため、補正によって発明の一部を削除する際に、貴社の製品を除外するような場合もしばしばございます。個人的な体験ですが、飛び込みのお客様が拒絶理由対応について相談に来られ、以前の対応で販売中の製品を排除するような補正を行ったことで困っているケースもありました。
欲しい権利範囲がある場合には、弁理士に伝えよう
上記の件も踏まえてですが、欲しい権利範囲がある場合には、遠慮なく弁理士に伝えましょう。可能であればコメント作成前の方が全員の負担が楽になるかと思います。コメントを受領した後でも、伝えないよりは伝えたほうが遥かに良いかと思います。自社の欲しい権利範囲が除外された特許権は、単なるコストでしかありません。
応答書類の検討
応答書類については、弁理士に任せた方がよいとお伝えしましたが、確認はもちろん必要です。以下、留意点を記載します。
明細書に記載されていない事項で補正を行っていないか
手続補正書による補正は、特許出願書類に記載された事項を超えた内容を追加することはできません。この場合、新規事項の追加(特許法17条の2第3項)として拒絶理由通知が出されます。補正の要件については、他にもいくつかありますが、この点だけは特に注意して下さい。
ロジックが適切に記載されているか
コメントと同様ですが、ロジックが適切であるかを確認してください。少なくとも技術的な内容については、貴社の方がご存じのはずです。技術的な内容については法律関係なく間違っているものは間違っています。弁理士は、意見書・手続補正書の作成の際に、一部貴社から聞いた内容から推測して記載を行うこともあります。このような場合に、筆が滑って誤った内容が記載されることがあります。しっかりと確認しましょう。
余計なことを言及していないか
意見書中で余計なことが述べられていないか能々確認してください。意見書に記載された事項は、訴訟などで権利範囲の解釈に利用されます。したがって、意見書は基本的にはシンプルに、記載すべきことのみ記載すべきです。余計な記載は、多くの場合において権利範囲の解釈時に悪影響を及ぼします。意見書を確認し、余計な記載がある場合にはしっかりと削除してもらいましょう。
発明の一部についてのみ議論している部分はないか
こちらも、特許権が成立した後に訴訟等で非常に問題になり得ます。基本的には、特許請求の範囲に記載された発明の全範囲にわたって拒絶理由が解消していることが大事です。しかしながら、実際の製品に気を取られるあまり、特許請求の範囲に記載された発明の一部である製品についてのみ議論している意見書が散見されます。
留意点
期限管理はしっかりと
通常、拒絶理由通知に対する応答期間は、発送日から60日です。2月の延長も可能ではありますが、期間を徒過すると応答することができなくなります。しっかりと期限を管理して期限内に意見書・手続補正書を提出できるように留意しましょう。
どうにも決めきれない際には特許事務所に打ち合わせをお願いする
書面のコメントを読んでもわからない、あるいはどうしてもよいか判断がつかない場合には、特許事務所に打ち合わせを依頼するのも一案です。文章を理解できなくても口頭だと理解できることはよくあります。若干の費用が生じるかもしれませんが、適当に決めて取り返しのつかない応答を行うよりは良いかと思います。
まとめ
拒絶理由通知を受けてもあわてる必要はありません。冷静に、適切に対応しましょう。また、拒絶理由通知へ対応では、弁理士の寄与は絶大です。一方で、貴社の権利範囲がしっかりと保護できるか、貴社としても確認してみましょう。