拒絶理由通知対応⑦ ~サポート要件~

前回から検討を始めた記載要件。今回はサポート要件について解説します。

サポート要件とはなにか

サポート要件は、請求項に記載の発明に関する拒絶理由で、実施可能要件とともに通知されることも多い拒絶理由です。サポート要件は、「請求項に記載した発明」が「明細書が記載されている」こと要求します。実施可能要件同様、化学・バイオ系の出願でよくみられる拒絶理由です。なお、今回実施可能要件と説明が重複します。ご容赦ください。

特許法第36条第6項第1号

まずは特許法の条文を見てみましょう。サポート要件は特許法第36条第6項第1号に規定されています。

第三十六条 

6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明(明細書等)に記載したものであること。

シンプルですね。但し、文字通り受け取ると、請求項の記載をそっくりそのまま明細書(+図面)に記載しておけば(コピー&ペーストしておけば)よいようにも考えられます。それだと、あまり意味のない要件となりますので、実務上は、発明が明細書に実質的な意味で記載されていることが必要となります。

なぜ拒絶されるの?

それでは、なぜサポート要件を満たさない出願については特許を受けることができないのでしょうか。

特許制度では、新規な発明を公開する代償として特許権が与えられます。そうすると、そもそも明細書に記載されていない、公開していない発明について、特許権を付与するのは適切ではありません。この観点から、明細書に記載される発明の範囲を超えて、請求項に発明を記載することを禁止する特許法第36条第6項第1号が存在し、拒絶理由となています。

どのように対応すればよいか

それではサポート要件違反の拒絶理由に対し、どのように対応すればよいでしょうか。

検討の流れ

対応の検討の流れとしては、他と同様、主に、①拒絶理由の分析、②対応の検討、そして③意見書・手続補正書の作成・提出のフェーズに分かれます。

拒絶理由の分析

まずは、拒絶理由の分析です。まずは拒絶理由自体が適切かどうかを確認しましょう。

基本は発明が明細書の記載の課題を解決できるか否か

それでは、どうすれば、発明が発明の詳細な説明(明細書等)に記載されているといえるのでしょうか。ここからは、特許実用審査基準の記載に基づいて説明します。

審査基準の記載

(1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすか否かの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとを対比、検討してなされる

(2) 審査官は、この対比、検討に当たって、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとの表現上の整合性にとらわれることなく、実質的な対応関係について検討する。

(3) 審査官によるこの実質的な対応関係についての検討は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであるか否かを調べることによりなされる。請求項に係る発明が、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていると判断された場合は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載されたものとが、実質的に対応しているとはいえず、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たていないことになる。

要するに?

ちょっと、ややこしいのですが、上記の記載のポイントは以下の通りです。

(1) 請求項に記載の発明と、明細書(+図面)に記載の発明とを比較する。
(2) 実質的な対応を比較する。
(3) 明細書に記載された発明の範囲は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲
(4) 請求項に記載された発明の範囲が、明細書に記載された発明の範囲を超えるとサポート要件違反となる。

こんなところでしょうか。ここで、唐突に「発明の課題」という用語が登場しました。「発明の課題」とはなんでしょうか。発明の課題は、端的に言うと、発明が解決しようとする従来技術が有する問題です。これを審査官は、明細書の記載から導き出しています。具体的には、明細書の「発明が解決しようとする課題」に記載された、発明の目的であることが殆どです。

そして、審査官は、特定した「発明の課題」を解決できる発明の範囲を明細書の記載から特定します。明細書には、確かに発明がだだっ広く記載され、課題が解決できない発明が記載されていることもあります。そういった発明は、課題を解決する発明として認めないということですね。

最後に、審査官は、請求項に記載された発明の範囲が、明細書中の「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えた場合にサポート要件違反を指摘します。


化学・バイオ系の場合

化学・バイオ系の発明の場合、実験してみないと従来技術の課題が解決できるかわかりません。このため、実施例から発明の範囲が特定されることが殆どです。結果として、実施可能要件とほぼ同じような基準でサポート要件が判断されます。このため、サポート要件と実施可能要件とが混同されることも少なくありません。この点については、後で説明します。

出願時の技術常識は考慮してもよい

本拒絶理由において、発明を実施する(仮想)主体は、当業者です。当業者は素人ではありません。一般的な技術常識を有しています。したがって、実施可能要件の時と同様に出願時に公知になっている技術常識は考慮して問題ありません。

例えば、請求項には、「弾性体」と記載されていたとしましょう。ところが、明細書には、「コイルばね」しか記載されてなく、明細書の記載からは、ほかのばねや、ゴムなどを使えるようには見えないとします。使えなければ、課題は解決しません。

この場合、通常であれば、審査官は、請求項の「弾性体」の記載を「コイルばね」に限定するようにサポート要件違反を指摘するかもしれません。

しかしながら、同様の用途でほかのばねやゴムを使用可能であると言及する技術文献(技術常識)が存在する場合には、技術文献に基づいて、コイルばね以外の弾性体でも使用でき、課題を解決できることを主張することが可能です。

なお、実施可能要件同様に、出願時の技術常識に基づいて課題を解決可能だと反論する場合には、説得するための材料として、出願日以前に出版された(公知になった)技術文献を証拠として提出することが好ましいです。審査官が、技術常識を知っているとは限りませんから。

化学・バイオ系の発明では実施例を中心に考える

こちらも、実施可能要件同様です。化学・バイオ系の発明では、実験してみないと課題を解決できると理解できませんので、しかし、各実験例は、発明中の条件を固定した一点でしかありません。発明は範囲を有しています。一点の実験例により、作用や効果を証明し、課題を解決できることを証明したとして、発明全体に広げることができるでしょうか。以下、ほぼ実施可能要件同様の説明なので、すでにその記事を読まれた方は読み飛ばしてください。

やはり、1点(1つの条件)の実験例の場合、そこから同様の効果が得られると予測できる範囲は限られています。大きく条件が変わった場合には、同様の効果が得られるかは不明です。

次に、複数の条件の実験例がある場合はどうでしょうか。例えば、パラメータXがあったとして請求項にはXが1~100であることが記載されていたとします。そして、実施例1ではXが20、実施例2ではXが90で、それぞれ同様の効果が得られたことが明細書に記載されていたとします。

そうすると、Xが20~90の範囲については、恐らく同様の効果が得られるでしょう。そして、恐らくですが、Xの20付近、90付近でも恐らく同様の効果が得られるでしょう。以上のように、実施例を組み合わせると、効果が得られると予測できる範囲が広がります。

このように、化学・バイオ系では実施例を主たる基準としてサポート要件が判断されますが、明細書に記載された実施例を組み合わせて発明のどの程度まで効果が得られると予測できるか検討してみましょう。予測できない部分については、実施できないため、サポート要件違反の指摘は妥当ということになります。

審査官の主観的要素が強い

本拒絶理由も、審査官の主観的要素が比較的強く反映されます。実験例から、どこまで発明の効果が得られるかについて明確な線引きをすることは一般論として不可能です。となると審査官の主観が入るのは避けて通れません。この点は、対応時に重要なので、留意しておきましょう。

審査官の示唆がある場合がある

多くの場合で、審査官は、どこまで限定すれば拒絶理由が解消するか提示してくれています。妥協できる範囲であれば、審査官の提案に乗ると、拒絶理由は(まず)確実に解消します。

対応の検討

拒絶理由の分析を終えたら、対応を考えましょう。対応としては、補正する、補強する、反論する、のパターンの組み合わせとなります。この組み合わせを考慮して、発明の範囲をなるべく減縮しないように、対応後の発明の範囲が最大化するように工夫します。

補正して発明の範囲を狭める

サポート要件違反の拒絶理由が妥当である場合には、発明の範囲を減縮する補正を行います。実施例等の明細書の記載を睨みつつ、発明の範囲を減縮してください。

なお、まったく補正を行わないと、審査官の拒絶理由を全否定していることとなり、審査官への心証がよくないことから、発明の範囲を実質的に減縮しないような形式的な補正を行って妥協したようにみせかけるのも悪くない手です。審査官も折れやすくなります。

補強する

審査官が技術常識を考慮していない、あるいは、審査官が発明の効果を十分に考慮してくれていないかもしれません。このような場合、証拠を提出して、発明が課題を解決できる根拠を補強することにより拒絶理由を解消することがあり得ます。

技術常識を示す証拠を提出する

審査官が技術常識を理解しておらず、発明により課題が解決できないと判断される場合があります。このような場合には、技術常識を示す証拠、例えば文献を示すことが有効です。

例えば、方法の発明で、A~Cステップが存在し、A,Bについては明細書に十分な記載がある一方で、Cについては、明細書にあまり記載がなかったとします。ここで、Cステップが出願時に十分に知られていた場合には、当業者は、明細書の記載と、知られているCステップの情報に基づいて、A~Cステップを実施できるはずです。

このような場合、明細書にCステップが十分に記載されていないという理由で実施可能要件違反が指摘された場合、Cステップに関する文献を提出して、出願時の技術常識に基づいて実施できると反論することも可能です。

なお、サポート要件においても、考慮されるのは出願時の技術常識です。ですから、出願日よりも前に公知になった証拠を提出しましょう。

実験成績書を提出する

化学・バイオ系の出願ではよく行う方法です。化学・バイオ系では、結局のところ、実施例と請求項に記載の発明とを比較し、実施例で効果を確認できる発明の範囲よりも請求項に記載の発明の範囲の方が広い場合に(請求項に記載の発明の範囲の中に実施できない部分がある場合に)サポート要件違反が打たれます。

専門家の皆様の批判を覚悟の上、誤解を恐れずざっくりとお伝えしますと、実施例を追加して、効果を確認できる発明の範囲を広げてしまえばよいのです。このために、実験成績証明書に追加の実施例を記載して提出することにより、拒絶理由が解消することがあります。

なお、一旦出願した出願書類に追加の実施例を記載することはできません。したがって、意見書を提出する際に、実験成績証明書を添付するか、追加の実施例を意見書中に直接記載することになります。また、原則として、追加の実施例の構成とその効果は、本来明細書中に記載されていなければなりません。実施例の追加については、微妙な判断基準が求められるケースが多いため、対応してくれている弁理士に相談してみましょう。

反論する

以上の対応を総合して(補正後の)請求項に記載の発明がその全範囲にわたって、明細書において、課題を解決可能に記載されていることを説明しましょう。「全範囲にわたって」というところが重要です。請求項に記載の発明の一部でもサポートできないと、やはりサポート要件違反です。

意見書・手続補正書の作成・提出

最後は、決定した対応方針に基づいて意見書・手続補正書を作成し、提出します。基本的には対応方針に沿って素直に作成すればよいです。留意点もこれまでの拒絶理由対応とあまり変わりありません。

意見書・手続補正書案の事前提示

こちら、個人的にお勧めの方法です。上述しましたように、サポート要件違反は、審査官の主観がどうしても入ってしまいます。審査官は、どの範囲まで減縮すれば拒絶理由が解消するかの示唆をしてくれることもありますが、では、その範囲からどこまで広げても大丈夫かは不明です。

したがって、意見書案、手続補正書案をまず作成し、弁理士に審査官とコンタクトを取ってもらい、意見書案、手続補正書案を送付します。そうすると、審査官は、案を検討しこれで問題ないか否かについて意見をしてくれます。問題ないとの意見の場合、その案をそのまま正式な意見書・手続補正書として提出すればほぼ確実に実施可能要件違反については解消します。

少し手間はかかりますが、とりあえず意見書・手続補正書を提出して、拒絶査定となったり、再度拒絶理由通知書が出されると目も当てられません。また、弁理士費用も一般的に高くはありませんし、特許庁の費用は発生しません。確実かつ低コストで拒絶理由の解消が可能です。

サポート要件と実施可能要件との関係

最後に、サポート要件と実施可能要件との関係について、解説というよりは独り言です。

よく、サポート要件と実施可能要件は、表裏の関係だとか、似ているだとか、言われ、挙句の果てには、同一視されている場合すらあります。この関係をどのように考えればよいのでしょうか。個人的には、「やはり異なる要件であるけれども、結果的に検討事項が同一になってしまうことがある」程度に理解しています。

共通点

まずは、共通点です。請求項に記載の発明と、明細書に記載の発明とを比較する点では、サポート要件と実施可能要件は同様です。サポート要件は、明細書の記載から見て請求項に記載の発明について検討しているのに対し、実施可能要件は、請求項に記載の発明からみて明細書の記載について検討してる店では、異なりますが、まあ、実質的には一緒ですね。請求項と明細書とでそれぞれ発明を特定し、比較するという作業自体は一緒です。

相違点

次に、相違点です。サポート要件と実施可能要件とでは、明細書中で特定する発明の範囲が、厳密には異なります。サポート要件で特定する明細書中の発明の範囲は、「課題を解決可能な発明の範囲」です。一方で、実施可能要件で特定する明細書中の発明の範囲は、「実施可能に開示された発明の範囲」です。実施可能だけれども課題を解決できない発明も存在し得ますし、課題を解決可能だけれども実施不可能な発明も存在するでしょう。やはり、意味合いは違うでしょう。

なぜ一緒くたにされるのか

それでは、なぜ一緒くたにされるのでしょうか。そして、本稿でも説明しているように、サポート要件と実施可能要件とでは、対応策はあまり変わりません。

まず、お伝えできるのが、結果的に「課題を解決可能な発明の範囲」と「実施可能に開示された発明の範囲」とで重複部分が大きいということがいえます。大体、サポート要件や実施可能要件は、出願人が、権利範囲を拡張したくて少し欲張っている場合に指摘される可能性が高まります。

例えば、実際には、高温下で使用するためにコイルばねしか使えないのに、欲張って請求項に単純に「弾性体」と記載した場合。高温だとゴムやエラストマーは使用できない場合があります。このような場合、あらゆる「弾性体」を使用することはできませんから、実施可能要件違反が指摘されるでしょう。一方で、ゴムやエラストマーだと高温下で燃えてしまいますから、恐らく課題が解決できないでしょう。この場合、課題が解決できる範囲を超えているとして、サポート要件違反が指摘されるでしょう。

特に、化学・バイオ系の発明では、実験してみないと課題が解決できるかも、実施できるかもわからないため、実施例に基づいて、サポート要件、実施可能要件が判断されます。そう、サポート要件も実施可能要件も、同じ実験データに基づいて判断されるのです。それは、一緒くたにもしたくなりますね。

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