拒絶理由通知対応⑧ ~明確性~

今回は、記載要件のうち明確性要件について解説します。

明確性要件とはなにか

明確性要件は、請求項に記載の発明に関する拒絶理由です。特許法では、請求項に記載した発明が明確であることを要求しています。まあ、明確であるに越したことはないですね。では、どのように明確であればよいのでしょうか。そして、なぜ明確である必要があるのでしょうか。

特許法第36条第6項第2号

まずは特許法の条文を見てみましょう。明確性要件は特許法第36条第6項第2号に規定されています。

第三十六条 

6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。
 特許を受けようとする発明が明確であること。

うん。まんまだ。条文見てもよくわからないですね。補足説明しますと、発明の意味そのものについて規定しているのではありません。どちらかというと、「発明の範囲」が明確ということが規定されています。例えば、以下の例をみてください。

例:
請求項1 砂糖を多く含む飲料。

その意味自体は明確でしょう。でも、どの程度砂糖を多く含めばよいのでしょうか。どの程度多く含めば権利範囲内で、どの程度少なければ権利範囲外でしょうか。ちょっとこれではわかりません。結局のところ、発明の範囲の境界がぼやけているのです。このような場合に明確性要件違反が指摘されます。

但し、発明全体の範囲が明確であるためには、各構成の技術的な意味が明確であることも大切であり、発明が明確であることの前提となります。

なぜ拒絶されるの?

それでは、なぜ発明は明確でなくてはならず、明確性要件を満たさない出願については特許を受けることができないのでしょうか。

一つ目の理由は、発明が不明確なまま特許権が成立してしまうと、第三者がある製品を製造・販売等使用とする際にその行為が侵害か非侵害かわからなくなってしまうためです。このためにも、発明か発明でないかの境界が明確でないといけません。土地の境界で揉め事が多いのを想像していただくとわかりやすいかと思います。

二つ目の理由は、発明が不明確だと、新規性や進歩性等の判断ができなくなってしまうためです。下の図の×は先行技術です。発明が明確な場合には、先行技術との関係がわかりますので、新規性の有無が明確にわかります。これに対して、発明が不明確な場合には、先行技術が発明の範囲内に含まれるのかよくわかりません。

どのように対応すればよいか

それでは明確性要件違反の拒絶理由に対し、どのように対応すればよいでしょうか。

検討の流れ

対応の検討の流れとしては、他と同様、主に、①拒絶理由の分析、②対応の検討、そして③意見書・手続補正書の作成・提出のフェーズに分かれます。

拒絶理由の分析

まずは、拒絶理由の分析です。まずは拒絶理由自体が適切かどうかを確認しましょう。

基本は発明の境界が明確か否か

明確性の判断基準は、端的に言ってしまうと、発明の境界が明確か否かです。言い換えると、ある製品や方法が存在した際に、発明の範囲内にあるのか、範囲外にあるのか、を明確に理解できるか否かです。特許庁の審査基準や、多くの裁判例では、後者の言い方をしています。

例1
請求項1 砂糖を多く含む飲料。

例2
請求項1 約1~10質量%の砂糖を含む飲料。

例3
請求項1 1~10質量%の砂糖を含む飲料。

例4
請求項1 水とエタノールの比が1:1~1:10である飲料。

上述したしましたように、例1だと、砂糖がどの程度の量含まれているのかわからないため、発明の境界が明確でなく、発明は明確ではありません。

それでは、例2はどうでしょうか?実は、例2も不明確です。「約」という言葉が厄介で、範囲の下限と上限がおおよそ1質量%程度、10質量%程度となります。約1質量%とはどこからどこまででしょうか?0.8~2質量%?この点で、「約」といった記載があると不明確となりやすい傾向にあります。

例3はどうでしょうか?こちらは、基本的には明確でしょう。少なくとも審査において不明確と指摘される可能性は非常に低いです。

最後に、例4はいかがでしょうか?こちらはですね。不明確です。なぜなら、水とエタノールの比率がどの基準なのかわからないためです。重量(質量)、体積、物質量(mol)等が考えられますが、基準によって範囲が変わってしまいます。

このように、発明の境界が明確になるのか、拒絶理由通知書の記載と照らし合わせて確かめてみましょう。ご参考までに、いくつかの類型は、特許庁が発行する特許実用新案審査基準に記載されています。

明細書の記載を考慮してもよい

請求項に記載の発明が、完全には明確でない場合、明細書の記載も参酌されます。明細書の記載と合わせて請求項に記載の発明が明確である場合には、本拒絶理由は該当しません。

出願時の技術常識は考慮してもよい

同様に、請求項に記載の発明が、完全には明確でない場合、出願時の技術常識も参酌されます。出願時の技術常識と合わせて請求項に記載の発明が明確である場合には、本拒絶理由は該当しません。

対応の検討

拒絶理由の分析を終えたら、対応を考えましょう。対応としては、補正する、反論する、のパターンの組み合わせとなります。発明が明確になる対応を考えましょう。

補正する

明確性の拒絶理由の解消は、基本的には、補正により行います。明確性違反が指摘された場合、基本的には、誤記や言い回しの問題で、用語に複数の意味が生じていたり発明の範囲が不明確となってしまったりしていることが多く、これを解消します。くれぐれも、補正により発明の境界が明確になることに留意してください。

反論する

補正により解決することが多いのので補正を行わずに反論することはあまりありません。意見書では、明確になったことをさらっと述べることが多いです。また、明確となったことが伝わりずらいと感じた際にはその旨の補足説明をするのもよいかと思います。必要に応じて明細書の記載を根拠にしたり、あるいは、下に示すように文献を提示するのもよいでしょう。

技術常識を示す証拠を提出する

審査官が技術常識を理解しておらず、発明が明確でないとと判断される場合があります。このような場合には、反論時に技術常識を示す証拠、例えば文献を示すことが有効です。

意見書・手続補正書の作成・提出

最後は、決定した対応方針に基づいて意見書・手続補正書を作成し、提出します。基本的には対応方針に沿って素直に作成すればよいです。留意点もこれまでの拒絶理由対応とあまり変わりありません。

意見書・手続補正書案の事前提示

場合によっては推奨している方法です。単に明確性要件のみで拒絶理由が通知されている場合、応答に失敗して拒絶査定となったり、あるいは再度の拒絶理由通知を招くのは勿体ないです。事前に審査官とコンタクトを取って応答案により拒絶理由が解消したか確認してもらうと、このような不測の事態を招くことがなくなりますのでお勧めです。

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