特許出願書類の眺め方① ~出願書類の位置づけ~

最初の話題は、特許出願書類です。特許事務所に行って、相談してその後に送られてくるあの意味不明な長文についてです。慣れてくると実は一定の論理に沿って組み立てられた書類であることがわかるのですが、初めてご覧になられた時は頭を抱えませんでしたか?私はしっかりと頭を抱えました。そこで、そもそも出願書類とは何のためにあるのかから解説し、出願書類の各項目とどこに着目すればよいのかを解説します。今回は、まず、出願書類の位置づけについてです。

出願書類ってどんなもの?

そもそも何のために提出するのか

まず、何のためにあんな冗長で複雑な特許の出願書類があるのか考えてみましょう。出願しないと権利が取れない。当たり前じゃないか。そう思われるかもしれません。でも、例えば、著作権は出願しなくても権利が発生します。それにこの世の多くの申請書は、特許出願書類のような数十ページもの字で埋め尽くされているものばかりではありません。但し、特許出願書類については、あのような形になった理由があります。

特許法では新規な発明を公開する代償として特許権が得られる

まず、特許制度の目的ですが、これは「産業の発達に寄与する」ことです。そして、特許法第1条には、この目的を達成するために、「発明の保護及び利用を図る」とあります。言い換えると、特許制度は、新しい技術(新規な発明)を公開したものに対し代償として特許権を付与し、一方で第三者に対しては公開された発明を利用する機会を与えるものとなります。

発明を公開する技術文書

そうすると、まず、特許出願書類は、新規な発明を公開する技術書類として位置づけられます。ですから、特許出願においては、あんなに詳しく技術を説明しないといけないのです。

独占できる発明の範囲を記載した権利書

一方で、特許出願書類は、最終的には独占できる発明の範囲を記載した権利書としても位置付けられます。新規な技術を公開したからと言って、なんでもかんでも独占できるわけではありません。例えば、ネジの技術を公開したとして、目薬の技術を独占できるのはおかしいですよね?特許出願書類には、自身の権利範囲が確定できるように記載している必要があります。

留意点

話題が少し脇道にそれますが、発明者の方が特許出願書類の案を読んで、どうも自分がイメージしていたものと違うとおっしゃることがあります。これについては、もちろん私がきちんと書けていなかったという場合もあるのですが、以下の点もあるのかなと思います。

出願書類の作成は、発明(技術)を法律の枠組みに落とし込む作業

まず、発明を独占する権利である特許権は、特許法に基づいて発生します。特許法のような法律なしに、新しい発明をしたら誰でも自動的に独占できれば便利にも見えますが、誰かが欲張って広い範囲の権利を主張したり、同時に複数の方が発明をしたりといった場合には、利害関係が交錯して混乱が生じてしまいますね。やはり特許法のような法律で、権利関係について交通整理を行うことが必要なわけです。

特許制度においては、技術(発明)を特許法という枠組みを通じて公開します。発明をこのような枠組みに落とし込む作業の一環として、特許出願書類を作成します。

純粋な技術文書ではない

次に、上の項目とも関連しますが、特許出願書類は、純粋な技術文書ではありません。法律の枠組みを通じて公開する以上、特許出願書類においては、技術も法律の枠組みに合った方法で記載しないといけません。そうすると、普通の技術文献からみて違和感のあるものになるのは仕方ないといえます。どちらかというと、「技術を記載した法律文書」と言った方がよいかもしれません。

事業や製品の説明がそのまま出願書類になることはない

また、往々にして特許出願書類に記載されている発明が、現在の事業や製品から少しずれているように感じる場合もあるでしょう。例えば、現在やっていない事業(用途)についての記載があったり、製品の一部分がやたらとフォーカスされすぎているように感じる場合もあるでしょう。

これは、特許出願書類が最終的に権利書となることに起因しています。特許権は、出願から20年間有効です。そして、出願から20年というと、事業がどのように展開されているか予想もできません。そうすると、特許出願書類では、できるかぎり広い範囲で権利を取得できるように記載する結果、現在行っていない事業についてまで記載することがあります。

また、一つの製品の中にも多くの技術が含まれています。そして、その技術一つ一つが発明となり得ます。全てについて特許出願するわけにもいきませんので、通常、そのうち重要で、他社に模倣されたくないものについてフォーカスし、特許出願を行います。

まとめ

というわけで、特許出願書類は、新規な発明を公開するための技術文書であり、同時にどの発明を独占できるかを確定させる権利書としての側面を有しています。ですから、やはり発明者の方から見ると、ちょっと違和感がありますね。

特許出願書類の位置づけは分かりました。じゃあ、どうやったらよいの?という話ですね。どうやったら発明を公開できてどうやったら権利範囲を主張できるの?と。
こちらについては、次回以降説明していきたいと思います。

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