特許出願書類の眺め方② ~出願書類のフォーマット~

特許出願書類の解説です。前回、特許出願書類は、新規な発明を公開するための技術文書であるとともに権利書であることをお伝えしました。でも、どうやって新規な発明を公開すればよいのでしょうか?また、どうやってほしい権利を主張すればよいのでしょうか。安心してください。特許庁は、このために適切なフォーマットを用意してくれています。今回は、出願書類のフォーマットの概要を見ていきたいと思います。各書類については、考えることが多くあるので、別の記事にて個別に説明します。

特許出願書類の構成

特許出願書類はいくつかの書類により構成される

まず、特許出願書類はいくつかの書類により構成されます。具体的には、特許出願書類は、願書、明細書、特許請求の範囲、図面、要約書により構成されます(特許法第36条第2項)。
建付けとしては、願書に明細書、特許請求の範囲、図面、要約書を添付しますが、実務的には、まあどうでも良いことです。なお、図面は不要な場合には省略できます。化学・材料の発明の場合、図面が不要となることも少なくありません。
詳細は、別ページにて説明しますが、ここでは、これらの概要を述べておきます。

各書類の概要

願書

願書は、簡単に言うと申請書です。発明者や出願人を特定します。間違えると大変困るものなので、弁理士から原稿をもらった際に、出願人、発明者の記載に誤りがないか丁寧に確認しましょう。もちろん大事な書類ではあるのですが、留意点としてはその程度です。

明細書

明細書には、発明の詳細な説明が記載されます。すなわち、明細書は、新規な発明を公開する技術文書の性格の強い書類です。
一般的には、従来の技術を記載してそこから導き出される課題を述べます。そして、その課題を解決した新規な発明を開示するという流れになります。

好き勝手に新規な発明を公開してよいわけではありません。他人が分からないように発明を記載したり、他人が作成・使用できないように記載したり、はたまた隠したいがために発明を記載しないうことすらあり得ます。そのような事がないよう、また発明がしっかりと開示されるよう、特許法には各種規定が設けられています。

特許請求の範囲

特許請求の範囲は、特許が登録された際に特許権の権利範囲(技術的範囲)を示す書類であり、出願書類の中でも、権利書としての性格が強い書類です。出願人にとっては最も重要な書類であるといえます。特許権の権利範囲は、発明を特定することにより行われます。

好き勝手に広い範囲を主張できるわけではなく、主張した権利がそもそも特許に値する新規な発明であるか、開示もしていない発明について権利主張していないか等の観点から、各種規定が設けられており、その権利範囲は、最終的には制限されます。

要約書

要約書には、発明の概要が記載され、特許出願が公開されて特許公開公報が発行された際に、第三者が発明の概要を簡単に理解できように設けられています。
一方で、要約書の記載は、権利範囲(技術的範囲)とは無関係です。

図面

図面は、必要に応じて添付する書類です。明細書においては基本的に文章で説明することになりますが、例えば機械の構造など文章での記載のみでは発明を十分に説明できないことがあります。このために、明細書での発明の説明を補助するために図面を添付します。

特許出願書類の捉え方

特許出願書類には、発明を説明し、権利を主張するためのストーリーがある

こうして出願書類を眺めてみると一定の話の流れが見えてきます。

明細書にて従来の技術を説明し、その後、発明がどれだけ新しく有用かを説明する。そして、有用で価値があるこそ、特許請求の範囲において発明の権利を主張する。

出願書類には、このようなストーリーが存在しています。このストーリーは、権利の請求と発明の公開という出願書類の2つの側面を見事に結びつけています。きっちりと発明を説明し、その代償として権利を請求する。まずは、この流れを頭に入れて、出願書類を眺めると、難解な書類も少しはわかりやすくなるのかと思います。

それでは、流れを踏まえた上で、権利書としてどのように記載すべきか、また発明をどのように開示すべきか、考えてみたいと思います。

権利範囲を検討する

まずは、どのような権利範囲の特許権が欲しいのか、考えてみましょう。もちろん、上記のストーリーからは逆の展開とはなりますが、そもそも権利範囲が得られなければ発明を公開する価値がありません。まずはこの点を見定めることになります。特許権における権利範囲は、「発明」の特定の仕方によって変えることが可能です。発明の特定の仕方については、特許請求の範囲等の説明時に詳しくお伝えしますので、特定するための大まかな概念をここでお伝えします。

既存の技術より新しい発明を特定する。

特許法では、「新規な発明」に対して特許が与えられます。したがいまして、権利範囲として特定する発明は新規であることが前提となります。この前提の上で、下記の点を考慮していきます。

競合会社の動向を検討する

どのような権利範囲が必要かは、同業他社やその他の競合会社の動向によっても変わり得ます。極端な話、競合他社が貴社の技術を模倣しないのであれば、特許権など取得しなくても、貴社は自社の技術を独占できるのです。まあ、今の時代そのような状況はなかなか見当たりませんが。

特許出願を行う場合、当然、現在の貴社の事業が保護されるような形で権利範囲を設定しますが、加えて少なくとも、競合に模倣されたり、特許を取得されたくない部分については、取得する権利範囲として設定すべきです。

但し、貴社から見えない競合他社も存在する可能性もあります。そういった意味では、後述する審査に通る可能性があるのであれば、まずは、できる限り権利範囲を広く設定すべきだと思います。

時間軸を考える

特許出願時に権利範囲を検討すると、どうしても現在の事業との兼ね合いにフォーカスしてしまいます。ところが、特許権は、出願の日から20年後に権利が切れます。そのことを考えると、20年後には現在とは異なる事業があって、その事業に今回の特許出願の技術を利用している可能性もあります。

ただし、当然ながら、3年後の未来すら予測のつかない時代です。正直なところ20年後なんて予測がつくはずがない。ですから、少なくとも貴社として行っていなくても可能性が少しでもある事業はカバーできるようにしつつ、できる限り広い権利範囲を目指すべきです。

複数の権利範囲を考えてみる

様々な観点から、権利範囲を考えてみることはとても大切です。具体的な案は打ち合わせ時に弁理士が出してくれるかとは思いますが、決断するのは企業の皆様です。こういった観点があることを知っておくに越したことはありません。

幾つかの観点(カテゴリ)

例えば、ある製品を開発した場合、まずは、製品についての発明が考えられます。一方で、製品の特徴ある部分を有する部品についての発明はどうでしょうか?こちらの場合、貴社が特定しようとした製品以外の種類の製品にも利用できる可能性があります。

また、ある製品を開発した場合には、その製品の使用方法についても発明として特許が取得可能かもしれません。さらには、その製品の製造方法についても発明として特許が取得可能かもしれません。

さらには、ある新しい製品を開発した際に、実は複数の新しい技術を利用してることも少なくないかと思います。でも、打ち合わせ時は一つの発明のように発明者の方は仰ることも少なくありません。この場合には、その技術ごとに特許出願が可能です。複数の特許出願が予算として厳しい場合には、どの技術をメインにするかを決めて出願するといったこともあり得ます。

このように、一つの製品を開発した場合であっても、様々な角度から発明を特定して、権利範囲を設定することが可能です。

欲張りたい範囲と最低限守りたい範囲

理想的には、最初に設定した権利範囲で特許になればよいのですが、残念ながらほぼ全世界において特許出願には審査が存在し、通常、補正を行って最初に設定した権利範囲よりも狭い権利範囲で特許になります。

したがいまして、同じ発明でも、広い権利範囲と狭い範囲とを複数用意しておくと審査がスムーズに進みます。通常、すこし欲張った権利範囲を特許請求の範囲において記載しておき、最低限守りたい範囲や特許に確実になりそうな権利範囲(「落としどころ」とも言います。)は、特許請求の範囲の下の方に記載するか明細書に仕込みます。

発明の公開の仕方

目的とする権利範囲を決定するのと並行して、発明の公開の仕方も考えます。とはいえ、どのように公開すればよいのでしょうか。一つのヒントは、明細書のフォーマットです。明細書のフォーマットに合わせて発明のストーリーを記載します。

設定した権利範囲に合わせてストーリーを設定する

発明を明細書において公開するにあたっては、明細書のフォーマットに沿って発明のストーリーを記載します。当初考えた発明ではなく、検討した結果決めた権利範囲の発明についてのストーリーです。

ここは、企業の方が「あれっ?」と思いやすい部分かと思います。「伝えたことがきちんと書かれていない」と不満に思われることもあります。こちらですが、当初にご説明いただいた技術を検討して、発明として広い権利範囲で出願する場合、また、従来技術があった等で部分的な権利範囲で出願する場合には、当初にご説明いただいた発明のストーリーが当てはまらない場合があります。

そういった場合には、新たに設定した権利範囲(発明)に合わせてストーリーを設定することが必要になります。もちろん、企業の方の想いについては、明細書中にしっかりと書き込んでおきますのでご心配なく。

審査では拒絶理由が指摘される

もう一つのヒントは、審査における拒絶理由です。特許出願においては、審査において特許査定をもらわないことには登録できません。なぜ審査を行うのか。これは、語弊を恐れずに言えば、特許に値する新規な発明であるか、また、その発明をしっかりと公開しているか等を審査において検討しているからです。審査において特許査定がもらえるのであれば、まずはひと通り発明を適切に公開しているといえそうです。

拒絶理由を予想する

特許法には、多くの拒絶理由があり、特許法第49条に列挙されています。こちらについては、詳細な説明は避けますが、新規性、進歩性などの発明自体の価値の評価、サポート要件、実施可能要件等の発明とその公開との関係の評価、等々があります。

これらの拒絶理由を全て考慮するのは、正直なところ専門家である弁理士に任せた方がよいかと思います。が、弁理士と相談して出てきそうな拒絶理由をある程度予想しておくことは非常に重要です。

拒絶理由を通知された際に対応できるか

そして、予想した拒絶理由に対してどのように対応できるかを検討します。こちらもしっかりと弁理士と相談してください。

対応するための効果や補正の元となる記載を仕込む

そして、検討した対応策について、明細書中に、仕込むことになります。仕込むのは、発明の効果や補正の元となる記載です。

言い換えると、明細書は、発明の公開を行うための書類ではありますが、審査において対応するための予備的な効果や記載を仕込むための書類とも言えます。

弁理士が細かな質問を繰り返すのは審査の準備をするため

特許事務所に行って、弁理士と話して、「こいつ、こまけーな」と思ったことはありませんか?否定するつもりはありません。割と細かい先生は多いです。しかしながら、予想される拒絶理由にどのように対応するかを検討するにあたり、やはり細かいところまで当たらなければならないことは少なからずあります。基本的には、弁理士は、貴社の権利範囲を検討しつつ、どうやったら審査の準備をして、スムーズに権利を取得できるかを考えているのです。

まとめ

・特許出願書類には、願書、明細書、特許請求の範囲、要約書、図面があります。特に特許請求の範囲は欲しい権利範囲を記載する権利書として、また明細書は発明を公開する書面として重要です。

・特許請求の範囲に記載する権利範囲については、欲しい権利範囲のみならず、必ず守らなければならない権利範囲を長期にわたった自社、競合他社の動向を見据えて多角的に設定しましょう。

・明細書において公開する発明は、フォーマットに応じてストーリーを記載します。審査において拒絶理由が指摘されるのでそれに対応できるようにストーリーを記載しつつ、対応するための記載を盛り込みます。

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